月夜見 “あのね…?”  〜月夜に躍る・]U

 


          




 ご当地のみならず、今や世界中の食通たちをもわざわざ運ばせる“隠れ家レストラン”こと、グリル・バラティエは、ランチタイムや夕方から晩にかけての正餐タイムといった混み合う時間帯だけ、お運びやオーダー係にとボーイさんを何人か雇ってはいるが。厨房は兄弟二人、調理は実質 サンジ一人で切り盛りしている、そんな小さな店であり。
「キッチンも店の規模も、今のが一番扱いやすいから、これ以上に広げるつもりはないんだってサンジも言ってたしサ。」
 季節に合ったメニューの差し替え、材料の吟味から調理、盛り付けに至るまで。指示を出すだけなんて真っ平と、人任せにするのを嫌がって。何もかもに気を配りたい完璧主義者なシェフ殿だという、そんな主義主張もあってのこと。オーダーが立て込む時間帯になれば戦場のように忙しくなる中を、そりゃあ鮮やかに次々と絶品キュィジーヌを捌いてゆくサンジは、一旦手をつけ始めると途轍もない集中に入り、その総てを熟練の手ごたえという“勘”に任せての作業となるのだそうで。
「レシピなんて見もしないクチだよな。」
 背中に“鉄人”とか書かれた炎を背負ってたりしてな。
(笑) むしろ、味見したら却っていつもの美味しいのと微妙に違う出来になるんだと、と。変な話だろ?と笑うルフィだが、これってあながち“変”ではない。現に、ウチの母も長年、独身寮の厨房で調理師という職で頑張っておられたお人だったが、使い慣れてる業務用の大ナベやらお玉やらでの調理に関しては、ほとんど目分量での流れるような作業で味付けをこなしており。逆に、下手に慎重になって味見なんてしたならば、
『おばちゃん、今日のみそ汁は新米さんが作ったの?』
 だなんて、寮生さんから訊かれたそうな。これもまた、体が覚えてるっていう“勝手”みたいなものなんでしょね。そんなタイプの料理人だというのに、
「だってのに、レシピ帳が戻ったの、ああまで喜ぶとは、俺も思わなかった。」
 意外だよなぁと、あっけらかんと笑った弟御がいるのは、店からはちょいと離れた路地にある、ゾロの寝起きしている古ぼけたアパートの一室で。まだお昼前、ランチの仕込みを手掛けにゃならないはずだったのだが、今日は手伝いはいいからと、じんわり喜んでいた兄上に店から早々に追い出され、それでとこちらへ押しかけていたりする。
「あの様子じゃあ、ランチは臨時休止にしちまうかもだな。」
 予約も入ってなかったし、何より、
「やっぱ、奪られたことが堪えてもいたらしいしさ。」
 昨夜だって眸ぇ赤くして朝帰りして来てサ。ありゃあ心当たり探しても糸口さえ掴めなくって、そんで悔しくて泣いたんかなって思ったほどだったものと、容赦なくすっぱ抜いたルフィであり。
「本人は“カティ・フランのトコ行って、韓流ドラマのまとめ観をしてきただけだ”なんて、白々しいこと言ってたけどもな。」
「ああ、あの船大工の。」
 裸一貫、ならず者を集めて始めた解体屋からの叩き上げで、今じゃあこの港町でも結構有名な造船と補修を請け負う工場を切り盛りしている船大工のお兄さんであり。一見するといかにも恐持てのする、ガタイも屈強な若衆だってのに、
「涙もろくて泣き上戸。あいつと飲むと鬱陶しくて かなわんのだがな。」
「サンジは仲がいいらしいぞ?」
 もっとも、あの人の“仲がいい”は、本人を前にしてもしなくとも、憎まれ口ばっか連ねるような相手ばかりだったりするのだけれど、と。やっぱり同じ扱いながら、なのに、店より大切な弟御が好いて離れぬ怪盗さんへは、さすがに複雑そうでいたりするコックさんのこと、選りにも選ってその弟さんが、罰当たりにも一通りこきおろしてから。

  「なあなあ、でもなんで、
   昨夜までF国で仕事してたゾロが、あのレシピ取り返して来れたんだ?」

 さっきも口にした“なんで?”を再び口にする。これでも自称“大剣豪の一番弟子”を自負している身だってのに、知らないことがあるのは詰まらないし、納得が行かない。そう感じての駄々コネのようなむずがりを見せるルフィだったが、
“そうは言われてもなぁ。”
 まだ高校生だってことと、兄上が“あんまり危険なことへ引きずり込むな”とクギを刺しているのと、それから。当然のことながらゾロ自身の気持ちの問題、矜持ってものも加わってのもろもろの兼ね合いから、請け負う総ての依頼に彼を付き合わせる気なんて 毛頭ない怪盗様でもあって。そんなのヤダヤダと愚図られたため、まあ情報だけならと、ひょっこりを装ったって首を突っ込めないような後出しでとか、今からすぐにも出るというよなギリギリの間合いに話してやり、そうすることで“嘘はついてない隠してもない”という詭弁で撹乱し、何とか宥めているという案配だったりするらしく。………そんな理屈で人を言いくるめられるだなんて、一応は大人なんだね、ゾロでも。ウチのあんたでは一等“出来る人”かも知れませんぜ?(螺旋のビジネスマン・ゾロでも、ルフィ相手ではこうはいかない・笑)それはともかく、
「なに。こっちには昨夜遅くに戻ってたしな。」
 予定はあくまでも予定であり、そこは個人経営
(?)ならではなお勤めだから。現場に行ってみて、さてと実際に手をつけてから、
『ああ、こりゃあ色々と危惧して多い目に見積もってたより早く済みそうだ』
 なんてことが判る場合だって往々にしてある。今回のもそういう手合いであったので、手際よく片付けた上で早い目に帰国し、そして…ナミさんから尻を叩かれ、もとえ。自分が留守中に出來(しゅったい)した この度の騒動の話を聞き及び、早速のこと、彼なりの心当たりを機敏に当たって回り、今にもどこぞへか発送されるところだったブツを、おイタはダメでしょうがと没収し、今後こういうことをしないようにと犯人へ重々反省させた、怪盗“大剣豪”さんであったらしく。…良いんでしょうか、そんなことして。サンジさんとあなたが裏世界でつながっているのかも知れないってこと、そいつ、腹いせに広めませんかね。
“そういう仁義を知らない奴は、結局、別な誰かから裏切り用の駒にされんのがオチなんだがな。”
 誰が“いつか先”の話をしてますか。ナミさんが聞いたらもっと具体的に説教されますよ? え? そのナミさんに言ってあるから、そういう分かりやすいおバカをしたら、その途端にここいらの“伝手”から弾かれる? そういうことになっても良いのぉ?と、ナミさんが直々メッセンジャーになってクギを刺しに行くことになってる? うわぁ、至れり尽くせりなんだ。
“当人には“踏んだり蹴ったり”でもあろうけれどもな。”
 くく…と短く笑い、さて。

  「くすぐってぇって。」
  「ん〜〜〜♪」

 立て付けは悪いが陽あたりのいい、散らかってるから見た目も悪いけど しっくり来て落ち着きの良い。そんな、寝室兼リビングの真ん中、ラグの上。傍らのベッドへ背中を預けて脚を投げ出し座ってるゾロの。その延ばしている脚、腿の辺りへとまたがって。ちゃっかりと懐ろ猫になってる坊やだったりし。
「何だよ、さっきは自分からこんなしてたくせに。」
 骨張らず、だが、筋肉で堅いゾロの喉元へと、こちらはそりゃあ柔らかな頬を埋めてのすりすり頬擦りを仕掛けてたルフィであり、
「だから。その気になっちまったら困んだろうがよ。」
「その気?」
 きょとと、大きな瞳を上げて来て、だが、
「何だよ、それならそうと言えってよな。」
 すぐさまパァッと破顔して、とんでもないことを言い返すルフィだったりしたもんだから。おいおい・こらこら、お兄さんが聞いたら卒倒するぞと、筆者はついつい焦ったが、
“………。”
 あれれぇ? 当の怪盗ゾロさんは、なんか平然としてらっさる模様。というのが、

  「こちとら慣れて来たからよ、ちうなら いつでもいいんだぜ?」
  「そうかい、そうかい。」

 にい♪と楽しげに笑った坊やの、すぐ目の前へ来ていたおでこの真ん中。ならばお言葉に甘えましてと、軽く唇をくっつけてのキスをプレゼント。そこから頬へ、それから…唇へ。触れてすぐにも離れる程度のそれは軽いもの、それでも一旦留め置くように丁寧なのをと意識して進呈すれば、
「えへへぇvv ////////
 生意気な言いようをした割に、これだけでも真っ赤にお顔が熟しているのだから世話はなく。照れ隠しにとこちらの懐ろへ転がり込んでくる温みを、そぉっと両腕でくるみ込んでやりながら、
“…やれやれだよな。”
 人の気も知らないで、と。薄ぺったな背中を撫でつつ、これでも大人のお兄さん、罪作りな坊やを前にして、内心で溜息一つ ついてたり…というところ。さすがはあの兄上が…たった今 筆者の手元で入力間違いにより“鬼うえ”と変換されたのが笑えたくらいの鉄壁の守りにて、微妙に怪しい世界に身を置きながらも“この子だけは”と守り抜いて来たのがようよう判るほど。高校生になったってのに、どこの深窓のご令嬢ですかと言われんばかりのこの純情っぷりである。こういう子の存在が“奇跡だ”とまでは言わない、今時の子供たちは成程びっくりするほど耳年増ではあるかもしれないが、本当にあれこれ実体験しているかどうかとまで話が進むと…いきなり何倍もまでは増えてもおるまい。(大体、こうなったのは全部大人の蒔いたタネが原因なんだしねぇ。)そのくらいは重々承知してもいるが、ただ。この坊やの場合はコンピュータに明るく、その余波として“イマドキ”の情報とやらにも標準並みには通じてもいように。自分の恋愛…というか、想い人との交際に関しては、このレベルの“進展”でも大層な進度だと思い込んでいる節があり。よって、

  “………物足りねぇなんて言えたもんか、だよな。”

 こちとらこれでも大の大人で、胸を張って言うことでもないけれど、そっちの…お体ぐるみのお付き合いって方面において、枯れた木石なんかであるつもりも毛頭ない。器用ではないから卒のないお付き合いってものが続かないだけで…。いやま、そういった“過去の履歴”はこの際 おいといて。

  “………だからよ。
   そんなふっかふかで温ったかな頬っぺ、
   無造作に首元へなんか くっつけてくれるなっての。////////

 最初のうち、ルフィの側から懐いて来ていたのを、果ては焼きもちまで焼いていたのをぶつけられたこともあり。それを、だが“ガキのくせに色気づきおって”とばかり、憎からずと思いはしてもそういう方面へは対象外だなんて高をくくっていたのは…紛れもない自分のほうから。だってのが、いつの間にやら。年の差はあるし、男の子だし。それにそれに何と言っても、微妙に関わりがないと言い切れないながら、それでも彼は陽の下で顔を上げて歩ける存在だから。自分のような人種とはあんまり関わりを深めてはならないと、一端にも偉そうなことを思っていたはずが、気がつけば。屈託のない笑顔で擦り寄り、無垢な瞳を輝かせもってこっちの顔を覗き込み、警察からの糾弾や何やで捕まってはないか、荒仕事で怪我をしてないかなんてことへ、見ているこっちが切なくなるよなお顔をし。だって大好きなんだからしょうがねぇだろと、臆面もなく言い切るそのくせ…、

  『こちとら慣れて来たからよ、ちうなら いつでもいいんだぜ?』

 これはなかろうシニョリーナ、いつからイタリア人になったんだいってか?(セニョリータだとスペイン語ですので、念のため。)大人みたいに マウス・トゥ・マウスのキスまでしてるんだ、凄げぇ凄げぇvv でもサンジに気づかれたら大変だよな?だなんて。まだまだこんなささやかなレベルへ、それはそれは大発展してでもいるかの如くに大興奮していてくださる、まだまだ黄色いサクランボさんであり。大変だよな?と言いつつ、ご本人は自慢げでいるようだけれど。こっちにしてみりゃ ある意味で生殺しで、もっと切実に“大変”だってのにね。

  「ゾロ?」
  「ん〜。あ、ああ、なんだ?」
  「何か ぼんやりしてねぇか?」
  「してねぇよ。」
  「してた。時差ぼけか?」

 ああ・はいはい、判ったから。心配してくれてんのは判ったから。膝立ちになってむぎゅりとばかり、こっちの頭を懐ろへ抱え込むんじゃねっての。薄ぺったい胸でもそれなり、肉の質感とかは伝わってくるんだし、チューインガムの甘ったるい匂いの陰にご本人様の匂いだって嗅ぎ取れて、何だか落ち着けなくなるからよ。今や悪魔の申し子にも匹敵するんじゃなかろうかとまでの脅威に育ちつつある、可愛い可愛いお弟子さんへ。困ってるような嬉しいような、何とも中途半端なお顔になって、とりあえずは…お膝抱っこの態勢へと戻らせて、肝心な君知らずのむず痒い物想い、分厚い胸板の下にて転がしてる怪盗さんだったりしたそうな。


   ………終わってなさい。
(ちゃんちゃんvv









    aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


「それにしても。」
「なに?」
「いや。あの眉毛の野郎、やっぱ ほとんどオリジナルの料理しか手掛けてねぇんだ。」
「うん。」
 レシピなんていちいち見て作らないタイプだと、弟さんも証言しているしねぇ。
「だったら、何でまたいちいちレシピなんて書き留めてんだ?」
「う〜ん、そういや不思議かも。」
 作ってるときに眺めてるってのは見たことないし、買い出しに行くときもわざわざ引っ張り出したりしてないし。
「老後の楽しみ、料理本でも出して印税生活送りたいのかねぇ。」
「どうだろ。ただ単に、新しい料理を考えるときに参考にして眺めるのにって使ってんじゃないのかなぁ。」
「覚えてらんねぇほどあんのかよ。」
「みたいだぞ?」


  ――― いやそんな、
       そこまで将来
さきのことを考えた計画的なお話じゃあなくってね。


  「いやはや、これはプリティッシュ皇国のアマンドちゃんの好物で、
   こっちはブリギッテちゃんのお店の牡蛎で作ったら絶品だったフリッセでvv

  ははぁ〜ん? そういうメモがあったノートだってか?
(苦笑)





  〜Fine〜  06.11.24.〜12.03.

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  *カウンター 222、000hit リクエスト
    ひゃっくり様
     『怪盗ゾロ設定で、ちうするまでの間柄なのが、
           サンジさんにバレそうでピンチ!…な状況。』

  *何かちょこっと(ちょこっと?)
   的外れな話になってしまっててすいません。
   あの窮地、あの局面で、なのに敵方の美女に鼻の下を伸ばすかサンジと、
   ちょこっと呆れたのが尾を引いていたかもです。

  *このシリーズのルフィがゾロへと
   “かっこい〜vv”だけじゃあない“好き”を意識し出したのは、
   何と早くも2話目からみたいでして。
   それがいきなり発展したのは、確か05年のルフィ誕話じゃあなかったか。
   なんでまた、既に ちうしてる仲に?という言い回しがいきなり出て来ており、
   後になって判明したのが、何たるお間抜けな事実だったことか………。
   はっきり言って、他のシリーズと混同してたんですね。
(爆笑〜〜〜)
   ただの好き、お気に入りの好きじゃなく“愛してる”の好きなんだと、
   だから唇へキスすんだ、デコどまりじゃないだろがと、
   ややもすると怒りながら
(?)告白していた“破邪”シリーズと、
   どうやらごっちゃになっていたみたいです。
(とほほん)
   こ、これで辻褄合わせになったんでしょうか。(キリリクでするな〜〜〜。)

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